遂に殻を破れるか~トッテナムVSリバプール~

今回は趣向を変えて、イングランドの地で今ノリノリのスパーズとイマイチ乗り切れていないリバプールの一戦から両者の武器と弱点を探ってみたいと思います。

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試合に入る前に軽くおさらいを。

個人的なスパーズのイメージってのは毎年毎年いいところまで行くんですが絶対どこかしらに邪魔されるイメージなんですよ。レスターが優勝したシーズンとか普通にスパーズ行けたっしょって感じでしたし。そして何より補強が下手くそ・・・というか、たしかにエリクセンなりアルデルヴァイレルトなり、当たる時はあるんですがそれ以上にバカみたいな補強が目立つんですよね。

ただ、今年はアヤックスのDFラインで大活躍したダビンソン・サンチェス、PSGのオーリエ、ジョレンテ等を獲得し、主力の流出もカイル・ウォーカーのみに抑えました。個人的にスパーズの選手層は少し薄いなと思っていたので、シーズン戦っていく上で大切なDFラインを固めたのは良かったなと思います。

対するリバプール。モハメド・サラー、ソランケ、ロバートソン、チェンバレンと補強しましたが、肝心のCB、ファンダイクの獲得に失敗。さらに、コウチーニョの移籍騒動など、慌ただしい夏を過ごしました。ちょっと安定したシーズンは難しいんじゃないかなーと予想していましたが、まさにその通りになってしまいましたね。

スタメン

まずスパーズ。怪我明けのローズではなくオーリエを左に回し、フェルトンゲン&オーリエでサラーとマッチアップさせる狙い。実際は引いて守る時間が多く、5-3-2の形が多かったです。この5-3-2は今季欧州のトレンドですね。この狙いは後述。

リバプールは怪我人が多いのがつらいですね。こちらも試合の中で形が変わっていきますので後述。

スパーズの先制点

前半開始直後、スパーズが先制します。リバプールの守備と合わせて御覧ください。

リバプール陣内でのスパーズのスローインから。スパーズの選手にはほぼマンツーマンでリバプールの選手がついてますね。

なのでスローイン投げても・・・

この体勢でプレスを受けたらワンタッチで戻すしか選択肢がないので・・・

そのままの勢いでプレスに行けます。もう一回後ろに下げますが・・・

ここに入るのがわかりきっているのでコウチーニョがプレスバックで狩りに行けます。

そんな感じで、ここまではうまくハマっているなーと思ったんですよ。その直後です。

まずエリクセンが矢印の方向に駆け抜けていきます。マークしている選手もずれるので・・・

 

黄色の一番使われたくないスペースが空いてしまいました。本来は赤丸で囲ったミルナーが下がってこのスペースを埋めるべきなのですが・・・

ボールが出てから向かう始末。とにかくリバプールの守備陣はボールウォッチャーになる場合が多く、それが失点に繋がっています。

ボールホルダーに対してこんだけスペース与えちゃダメでしょ。そしてこのトリッピアのくれのポーズ。

ただ、ソンフンミンは献身的なランニングと豊富な運動量でサポートしてくれる反面、こういったボールを持って崩す場面ではどうしても足元の技術の粗と戦術理解度の低さというのが目立ってしまいます。

ここでもエリクセンへのパスを選択しますが、そんな激しいプレッシャーを受けているわけでもないのにうまく落とせません。が、ご覧の通りうまいことトライアングルが組めているので・・・

エリクセンの詰めが間に合いました。

そしてそのまま流れてきたソンに預けて自分は中へ。

さてこの場面。色々とツッコミどころがありますね。

まず大前提として、今のケインははっきり言ってプレミアどころか世界屈指のストライカーに成長しました。DFやGKとの駆け引き、推進力など、いいところ挙げたらきりがありませんが、とりあえず裏取られたらアウトなんてのは小学生でもわかるわけです。

それでこの場面です。リバプールのDF陣は全員が完全にボールウォッチャーになっていますね。ロブレンのケインとの距離感も離れていますし、「ケインを使わせない」という意識が感じられません。

そして個人的に気になったのは赤丸で囲ったDF。本来この場面、DFライン設定の基本は「ボールサイドのDF」です。この場合はロブレンですね。ここが合ってない。まあケインもこの裏取りは上手いので上げたところで得点に繋がったかって言うと微妙なところなんですが、要するにそういう基本的なことすらできてないレベルってことなんですよ。

そしてフライスルーパス。ロブレンは完全に一歩目が遅れてます。

ロブレンはこの時点で完全にフリーズしてしまいましたので、ケインについていけません。てか、マティプも「裏に抜けたケインとGKが1対1」の場面で手を上げてオフサイド主張している場面じゃねえだろと。まずはスペースのケアが先決でしょ。

そしてこの場面。一部メディアでは詰めていったミニョレが悪いみたいな論調がありましたが、それ以前にこのDFラインのが問題だろうと。正直詰めていってかわされても詰めないでゴール前に構えていてもスペース与えられた今のケインだったら間違いなく1点だろうと。

結局、弾かれたボールをうまくコントロールしてケインが今季ホーム戦初ゴール。スパーズが先制します。

リバプールのビルドアップとスパーズの受け

守備時はハーフウェーライン手前まで引いた撤退5-3-2のゾーンを敷くスパーズ。

5-3-2は今季欧州でトレンドになりつつありますね。とにかく固い。ちょっと前まではアトレティコやレスターの4-4-2が守備戦術の代名詞みたいでしたが、それが通用しない相手が増えてきましたからね・・・。

さて、一応ここで5-3-2ってのがどういうものなのかっていうのを一応考察しておきましょう。そもそも、なんで4-4や4-3の守備ブロックが無効化されつつあるのかっていう話です。

そもそもゾーンディフィエンスの常識として、「ボールサイドに寄せる」という基本がありますね。なので、もし3トップでしかも押せ押せで上がってくるリバプール相手に4-4のブロックだと・・・

こんな感じで、DFラインの逆サイドの大外が空いてしまうんですよ。俗に言う対角パスっていうやつですね。これで深い位置までえぐられて折り返されると失点する確率が高いと。しかもリバプールのウイングはサラーとコウチーニョですからね。即死です。じゃあもうちょっとワイドに守ればいいじゃねえかって言うと・・・

網目が荒くなったおかげで、今度は一番使われたくない中にコウチーニョがいるぞ・・・と。ところがこれが5-3-2になるとどうなるかって話です。

スパーズの5-3-2

見ての通り、5バックだとそもそも横スライドをする必要が無いくらいフィールド全体を覆えるんですよね。しかも3センターでフタをする形になるので、中央にもボールが入りません。なので、赤い矢印のようにボールがUの字に展開するしかなくなってしまい、基本赤いゾーンにボールが落ち着くことになります。

が、実際はどうだったのか見てみましょう。

この時間帯はアリがセンターで左にウインクス、右にエリクセンという3センターの並びでした。リバプールは中が締められているので外→外の攻め筋で行くしかありません。が、このパスはもうスパーズとしては誘導しているパスコースなので・・・

フェルトンゲン「今だっ!!!行けっ!!!」

オーリエ「ハイッ!!!」

自信を持って寄せに行けます。たまらずバックパス。ちなみに、このバックパスも誘導したバックパスなのでソンがまたプレスに向かっているのもポイント。

クロップ「外→外コースがダメなら対角パスや!!」

基本5-3-2の5バックでも、スパーズはかなりコンパクトに絞っていたので大外は実は空いていたんですね。

というわけでコウチーニョに。コウチーニョにこれだけの時間とスペースを与えてしまえば流石にキープされてしまいます。さあこっからコウチーニョ無双かと思いきや・・・

・・・

・・・?

・・・・・・????

結局お前がクロス上げるんかいっ!!!!!!

いや、確かに対角パスからのチャンスなので上がってくるのに時間がかかるのは分かるんですが、それにしても「コウチーニョをサポートしてやろう」って選手がモレノだけって・・・。そりゃ点も取れませんわという。

そもそもこの場面を見て分かる通り、数で言えば圧倒的にスパーズが有利なわけですし、質の意味で言ってもスパーズのDF陣はリバプールと違って世界最高峰のレベルです。そいつら相手にゴールこじ開けようと思ったらそれこそ2列目3列目がゴール前に飛び込んでいくようなサッカーをしていないといつまでたっても点なんて取れないと思うのですよ。カウンター怖がって出れないなんて言っている場合じゃないぞと。だったらそもそも安心して任せられるDFを獲れやって話ですよ。ええ。

そんなこんなやっているうちにスパーズが2点目。場面はまた白い壁に対してクロスを入れた直後からです。

これでリバプールの選手が空中戦勝てる確率ってどれくらいですかっていう。

ここでロリスからケインへロングスロー。

ここも芸術的なロブレンのスルー(ファンダイクはよ)でケインにボールが渡ります。そして黄色の丸で囲んだソンに注目。

無限の荒野を突っ走る野獣ケインの逆サイドでソンがギアをトップに。

ケインは視野を持ったままドリブルができる選手なのでここまで走り込んできたソンの存在を認識できています。ソンもここまで走って来たので・・・

ラストシュートを打つことができました。スパーズが追加点で2-0。

さて、じゃあスパーズの守備ブロックは本当に鉄壁だったのか?というと、そうともいいきれないんですね。「何言ってんだこいつは」って目で見ないで。

例えばこういう場面。

エリクセンは攻撃面ではスイッチを入れるキーマンではありますが、守備時にはこういう感じで穴になってしまう場面が試合を通して見られました。この場面も、そもそもヘンダーソンにつかなくても矢印で指したところにいれば赤い矢印のパスコースを閉じれて、次の展開に繋げない・・・っていうのが狙いだったはずです。なのでこのスペースが空けば・・・

そりゃ使ってきますよねえ。この場面はウインクスがうまくスペースを埋めながら寄せてきていたので失点にはなりませんでした。この辺の動き含めてこの試合のウインクスは素晴らしかったと思います。ケインやソンに劣らない活躍でした。

こんな感じで、3センターを採用するチームはその3センターの完成度(やはりこの手の守備戦術はカルチョが教科書)で失点が増えたり減ったりするわけです。この辺の甘さがちょくちょく見える場面がありました。

スパーズのビルドアップ

さて、対するスパーズのビルドアップ。

オーリエが高い位置に上がって3トップ気味になる形。3バック+1型ではなく、ワイドに幅を取ってビルドアップする形でそこにエリクセンが加わってトライアングルを作ります。やはり攻撃面でのエリクセンは凄まじいタレントです。

ちなみに、DFのフェルトンゲン、サンチェス、アルデルヴァイレルトはアヤックスから来たとあってビルドアップも問題なく絡めます。流石オランダ。

さて、リバプールは全くプレスに来ない状態なので楽にボールが運べるアルデルヴァイレルト。

サイドのトリッピアへ。この時のトライアングルの形が完璧ですね。各トライアングルの中心にリバプールの選手がいるのでプレスが完全に無効化されています。美しい。

こんな感じで、スパーズがボールを持った時は余裕を持ってビルドアップができていました。カウンターもできて遅攻もできるっていうのはスパーズの大きな武器だと思います。

スパーズの穴

さて、このまま指をくわえて終わる気はリバプールにはないでしょう。実はスパーズの5-3-2にはもう一つ弱点がありました。

場面はリバプールのスローインをアリがカット、エリクセンとケインでプレスを剥がしてさてカウンターという場面。

ケインが運びます。この時、スパーズの選手たちはケインの驚異的なキープ力を信頼して「ボールを取られない」前提でプレーしているので、意識が完全に守備→攻撃に切り替わっています。

ただこの場面、ケインがボールを奪われてしまいます。そりゃ3人でプレスしてますし、カウンター攻撃だからサポート少ないし仕方ないですわな。

そしてこの場面。スパーズのDFラインの前にMFのフィルターがない、しかもDFラインにはギャップがあり、裏に走り抜けるスペースが有るという最大のチャンスの到来です。

ヘンダーソンからスルーパスがサラーへ。サラーはもうこの時点でトップスピードに乗っているので・・・

振り切れました。リバプールが一点を返します。

正直、このプレーでミスをした選手は1人もいない(フェルトンゲンもしっかり深みをとってポジションを取っている)のでスパーズが悪いというよりサラーを褒めるべきなのですが、「カウンター返し」にどう対応するかってのはスパーズの課題になったかなと思います。俗に言う「ネガティブトランジション」ですね。

この後またUの字に展開しながらクロスを入れる展開が続きます。絵面が変わらないので割愛しますが、とにかくウインクスが中心になって3センターをまとめているのがわかりました。ただ前述の通りエリクセンだけがこの3センターで唯一浮いてしまっていたので、そのへんどうすんのかなーと思ってます。攻撃面ではエリクセンがトップ下の位置に入って自由に動く形がハマっていたので、諸刃の剣と言ったところでしょうか。

後半の場面から、エリクセンが穴となってしまったプレーをご紹介しましょう。

この場面。ボールホルダーのコウチーニョに対してエリクセンが詰めます・・・が、本来この場面で言えば2トップの内どちらかがプレッシャーを掛けて攻撃をサイドに迂回させるところです。エリクセンは黄色い丸の位置で待ち構えているべき場面です。

サイドの選手にボールが渡ります。贅沢言えば、この場面からバイタル通されたらスパーズは怖かったでしょうねー。ここはクロスを選択。

弾かれたセカンドボールはサラーが拾えます。コウチーニョがボールを受けれる体勢になってますね。

守備が後手に回ってしまっているので、コウチーニョがシュートまで持って行けてしまいました。こりゃー入ったなーと思ったのですが・・・

残念そこには神。今年のロリスはちょっと神がかっていますねー。

もう一つ。

モレノに対してエリクセンが対応します。トリッピアは外のアーノルドをケアしているので対応できません。

まー振り切られるよねー。結構走ってましたし流石にそろそろ限界。

シュートまで持って行かれてしまいました。まあこのDF陣とゴール前にいるのが神なので問題ないんですけどね。要するにエリクセンの担当エリアからこの時間帯ことごとくチャンスが生まれていました。これを察知したポチェッティーノは同じく前半から飛ばしてヘトヘトのソンフンミンをシソコに変え、エリクセンの位置に。エリクセンは一列上がって2トップの一角にするという采配を見せます。その後エリクセンに変えダイアーを投入しアリとケインの2トップに、左からウインクス、ダイアー、シソコの並びに。

交代後の3センターは正直結構穴があったので、そこを突かれて何回かリバプールがチャンスを作れていました。

この距離感。各選手が離れすぎですよね。間を通されるのも仕方なしって感じです。

リバプールのセットプレーの対応

スパーズの3点目と4点目はセットプレーからの得点でしたが、ちょっとリバプールの対応もお粗末すぎるのではないかと。少し見ていきましょう。

この場面。赤いラインがリバプールの設定ラインですね。ケインが飛び出します。

で、ケインに対してラインで”全員が”ついていっちゃうんですよね。そうするとラインの手前で黄色い丸のアリがどフリーになってしまいます。

結局跳ね返ったボールをノープレッシャーのアリがボレーで合わせて追加点。ラインでついていくのはかまわないんですが、1人ないし2人はちゃんと人についていないとセカンドボール拾われてズドンされるのなんて容易に想像できたはずです。脇でソンフンミンもフリーになってますしね。

後半のダメ押しの4点目もセットプレーからのこぼれ球を押し込まれてます。

この場面。なんで大外のフェルトンゲンに誰もついていないのかっていう(フェルトンゲンの目の前のヘンダーソンはケインに釘付け)。

またライン”だけ”で対応します。フェルトンゲンでなく奥のアリにもこれだけのスペースが有ってなおかつどフリーですよね。結局この場面も弾かれたボールをフェルトンゲンがシュート、弾かれたボールをケインが押し込んでゲームエンド。上空から見てみると・・・

ケインについていたヘンダーソンが慌ててフェルトンゲンに対して詰めに行っているので、ケインがほぼフリーの状態ですよね。最初っからフェルトンゲンに誰かついていればこんなことにならなかったと思います(ただ、ぶっちゃけフェルトンゲンと競り合って勝てる選手がリバプールにいるかと言われると・・・)。

まとめ

試合は4-1でスパーズに軍配が上がりました。リバプールは縦のスピードを使えなくなってしまうとジリ貧みたいなサッカーになってしまいますね(「リバプールの」の部分を「クロップの」に変えてもいいかもしれません)。CFのフィルミーノと交代して入ったスターリッジはこの試合ほとんどボールが触れず、完全にゲームから追い出されていました。アトレティコのように1世代前は堅守速攻で旋風を巻き起こしたチームも、引き出しをいくつか持たなければ勝てない時代になった結果、今はボールを持ったときの崩し方の構築に取り組んでいます。そういう意味でリバプールの中盤の選手に目を向けるとちょっと見劣りする選手が多い(ヘンダーソンを未だに中盤の底で使っているような状態)ので、こういった戦い方されるときついでしょうね。

対してスパーズは4バックと3バックを対戦相手や持ち駒によってうまく使い分けられています。ビッグクラブ相手にも戦術的駆け引きができるレベルのチームになりました。何よりもDF陣の出来が素晴らしいことと、堅守速攻もできればボールを持って崩すこともできるというのが大きな武器だと思います。選手のタレント力にも申し分ないですし、怪我さえなければ今年は良いシーズンを送れるんではないでしょうか。楽しみですね。

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コメント

  1. […] ファンダイクの加入まで、リバプールの守備は「史上最悪」との評価でした。私もそのような記事を以前書きました(詳細は→遂に殻を破れるか~トッテナムVSリバプール~)。ですがファンダイクの加入により状況は一変。完璧にフィットしCL決勝進出に大きく貢献しました。クレバーな戦術眼にフィジカルの強さも兼ね備えたモダンなCBです。 […]

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